IFRS導入によって金融機関に与える影響はどうなるの?

 

日本の銀行が国際財務報告基準(IFRS)を適用するに当たって、

特に問題となるであろう主要な論点を紹介したいと思います。会計処理に

影響があると思われる点に限定して注目したいと思います。

 

金融商品のカテゴリーについて

IFRSでは、金融資産は、損益を通じて公正価値で測定する

もの(Fair Value Through Profitor Loss:FVTPL)、

満期保有投資(Held ToMaturity:HTM)、貸付金及び債権

(Loansand Receivables:L&R)、

売却可能金融資産(Available For Sale:AFS)に区分されます。

それぞれ売買目的有価証券、満期保有目的の債券、その他有価証券に

概念も会計処理も類似しますが、IFRSにおける区分は有価証券に

限定されたものではなく、金融資産一般に適用されます。

また、これらのうちL&Rについては、活発な市場における市場価格が

ある金融資産を、この区分に分類することはできません。

企業は金融資産を取得した時点で、一定の要件および保有意図に従い分類し、

その分類に基づいて測定および会計処理することが求められます。

 

より公正価格での評価が求められる

日本基準にない規定としては、必ずしも短期売買を目的とした

金融商品でなくとも、一定の要件を満たす場合、企業自身の選択による

FVTPLとしての処理の指定を認めており、これは一般に公正価値オプション

といわれています。ヘッジ会計を適用するには、かなり厳格な要件を

満たさなければならないので、その負担を避けるために代替として

公正価値オプションが使われることがあります。しかし、

公正価値オプションは、ある取引について、いったん指定したら、

その後も適用し続けなければならず、取り消せないのに対し、

ヘッジ会計は経営者の意図により、ヘッジ指定を開始したり

中止したりできるという点で、会計上の結果に大きく差が生じ得ます。

 

デリバティブにもFVでの評価

kakuteisinkoku

 

デリバティブについては、ヘッジ会計が適用される場合を除き、

原則としてFVTPLとしての処理が求められます。デリバティブの

定義は日本基準と類似していますが、相違点として、IFRSでは

純額決済は要件とされず、単に将来決済が要件とされていることが

挙げられます。日本基準でも、デリバティブ取引が流動性の高い

金融商品で決済される場合などは、純額決済と実質的に異ならない

状態に置くものとして要件を満たすことになり、結果としてIFRSと

同様になります。しかし、そうでない場合、IFRSでは純額決済が

要件とされていないため、より幅広い商品がデリバティブに該当する

可能性が高いといえます。

複合金融商品の組込デリバティブについては、区分処理することが

求められます。日本基準では、区分処理の要件を満たしていない場合でも、

企業が管理上、区分している場合には区分処理が認められます。

IFRSには、そのような規定はないため、前記の要件を満たす場合には

区分処理しなければなりませんが、逆に満たさない場合には区分処理が

認められません。

なお、金融負債について、デリバティブおよび企業が前述の公正価値オプション

を適用したものはFVTPLとして処理されますが、その他は一部の例外を

除いて実効金利法により償却原価で計上されます。

 

金融商品の認識および測定

金融資産の取得に伴う費用はIFRSでは取引費用といわれていますが、

FVTPLに区分される金融商品を除き、取引費用は当初の原価を構成する

ことになります。従って、例えばHTM、AFSに区分される債券等に

係る取引費用は、実効金利法による償却を通じて残存期間にわたり、

利息として損益認識されます。また、償却原価の算定上、IFRSでは定額法

を認める規定はないため、実効金利法の適用が求められます。

なお、FVTPLに分類された金融資産を除き、毎期、減損の検討が

行われます。

減損については、認識と測定を区分して考える必要があります。

IFRSでは、貸出金に対する貸倒引当金も減損の一形態とされています。

減損は、過去の事象に基づく減損の客観的証拠がある場合にのみ認識すべき

とされています。実際の適用に当たっては、自社の査定基準における

債務者区分の基準等を59項と対比し、整理する必要性が生じると考えられます。

減損の「測定」上、比較対象とすべき価額は、AFSの場合には公正価値と

なります。L&Rは、まず個別に重要な債権について減損の客観的証拠の

有無を検討し、それがある場合には将来キャッシュ・フローを当初認識時に

計算された実効金利で割り引いた金額で測定されます。個別に重要でない債権、

および個別に重要だが個別には減損の客観的証拠がないと評価された

債権については、リスクの同質性に基づきグルーピングし、過去の実績などを

基礎として資産グループとしての貸倒引当金を見積もります。

取得後の測定に関して、AFSに分類される株式等の持分金融商品は、

非上場株式であったとしても、合理的な公正価値の見積値の幅が重要な場合、

または、これらの見積値の確率が合理的に評価可能でない場合を除き、

公正価値での評価が求められています。欧州のIFRS適用金融機関の

事例を見ても、公正価値で評価されない持分金融商品は非常に限定的です。

IFRSでは支配(支配アプローチ)に加え、リスクと経済価値(

リスク・経済価値アプローチ)の概念も取り入れた、混合アプローチ

ともいうべきモデルを採用しています。IFRSでは、これら異なる概念の

矛盾を避けるため、検討の順序を厳密に規定していますが、大まかにいえば、

まずリスク・経済価値アプローチに基づく検討を行い、必要な場合には、

 

ヘッジ会計について

ヘッジ会計が必要とされる背景について日本基準と異なるところは

ありませんが、大きな違いとして、IAS39号では非有効部分の損益認識が

求められていることが挙げられます。従って、ヘッジ会計一般について、

非有効部分(または有効部分)の測定が大きな課題となります。

IFRSにおけるヘッジ会計は、公正価値ヘッジ、キャッシュ・フロー・ヘッジ、

在外営業活動体(在外子会社や在外支店など)に対する純投資のヘッジの

三つに分けられ、それぞれについて会計処理等が規定されています。

公正価値ヘッジは、特定の基礎数値の変動によるヘッジ対象の公正価値の

変動をヘッジする場合に適用されます。ヘッジ手段であるデリバティブを

公正価値で評価し、その変動を損益認識するとともに、ヘッジ対象については、

ヘッジされたリスクに起因する公正価値の変動を損益認識した上で簿価を

修正します。従って、非有効部分は自動的に損益認識されることになります。

キャッシュ・フロー・ヘッジは、特定の基礎数値の変動によるキャッシュ・

フローの変動をヘッジする場合に適用されます。

IFRSでは、ヘッジの有効性の厳格な評価・測定が求められます。

この考えは、日本基準で認められている金利スワップの特例処理や、

為替予約の振当処理が認められないということに表れています。

負債と資本の区分について

IAS32号では、金融負債の定義ならびに複合金融商品も含む

金融商品の発行体における負債と資本の区分に関する諸規定が

設けられており、金融負債の定義や関連する規定に該当する場合には、

たとえ法的には資本であっても負債に区分されることとなります。

例えば銀行の場合、自己資本比率改善のために優先株を発行することが

ありますが、IAS32号では、金融商品が企業自身の持分金融商品で

決済されるか、または決済される可能性があり、自らの持分金融商品の

可変数を発行者が引き渡す契約上の義務を含む非デリバティブの場合には、

金融負債とされます。従って、優先株の中でも転換価格リセット条項が

あるようなときには、自らの持分金融商品の可変数を発行者が引き渡す

契約上の義務を含むと判断されるケースも生じ得るので、特に慎重な検討

が必要となります。

外貨換算

在外営業活動体の財務諸表は機能通貨で作成し、それを本店または

親会社(IFRSでは報告企業と呼ぶ)の報告通貨(通常、報告企業の

機能通貨が該当)に換算する場合には、損益項目は取引発生時の為替レート

(平均レートなどの使用も例外的な状況を除いて可能)、資産及び負債

については期末レートでの換算が求められます。

(2)SPEの連結

IFRSでは、企業間に支配の関係がある場合、支配企業は被支配企業を

連結しなければならないとされており、この原則はSPEに対しても

適用されます。

まとめ

金融機関に最も大きな影響を与えると考えられるIAS39号は、

IFRSの一連の基準書の中で理解が最も難しいといわれています。

IFRSはプリンシプルベースといわれますが、こと金融商品に関する

多くの論点については、日本基準よりもルールベースに近いといえる

のかもしれません。

 

ーIFRS9号の発行に伴いIFSR導入がより明確になった。

ーIFRSでは日本基準における金利スワップの特例処理や

為替予約の振り当て処理といった特例なく、ヘッジ有効性を

満たしていても非有効部分を純損益に認識する必要がある。

ーIFRS第9号はクローズドポートフォリオを前提としている。

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