高橋洋一氏、高市早苗氏ら(積極財政派)の論点と日本のインフレリスクの状況は!

日本の財政状況とインフレリスクについて、

積極財政派と慎重派とのあいだで二分する

議論となっています。

そこで今回は、特に高橋洋一経済学者や高市早苗自民党総裁など

が主張するその財政積極派の論点とインフレリスクについて

調べてみました。

最新の状況(要点)

日本の政府債務残高(政府一般の長期債務)は 巨額で、2025年度末

で約1,129兆円程度と財務省が見込んでいます。

JGB(日本国債)の保有者内訳では、日銀(BOJ)が保有する割合は

約50%前後(2025年中時点で「約50.9%」と報告されている資料があります)。

つまり発行済みJGBの半分近くを日銀が保有しています。

対GDP比(一般政府総債務/GDP)は国際機関の推計で約230〜235%程度と

非常に高い水準にあります(IMF等のデータ)。

高橋洋一氏ら積極財政派の主張

経済学的論理:高債務・高日銀保有=即ハイパーインフレではない理由

ハイパーインフレ(短期間で物価が極端に上昇し通貨が急落する現象)

が起きるメカニズムと、日本の現状を照らし合わせると、単に債務対GDP比が

高いだけではハイパーインフレにならないことがわかります。主な論点は次の通りです。

1) 債務の「誰が持っているか」が重要(国内保有の多さ)

日本の国債は圧倒的に国内で保有されています(銀行、保険、年金、家計、そして日銀)。

外貨建て債務や海外保有比率が高い国と違い、外国投資家が一斉に売る→通貨暴落

という経路が起きにくい。国内主体が長期的に保有できる構造だと、債務ショックが直接的

にインフレにつながりにくい。IMF や学術研究でも「高負債でも国内保有・自国通貨建

てはリスクが低い」という指摘があります。

日本は世界でも突出した高い債務対GDP比を抱えていることは事実です(約230%前後)。

一方で、国債の国内保有割合が高く、日銀が大量に保有しているため、

構造上は即時にハイパーインフレになるリスクは低いと考えています。

経済学的にも政策論的にも、**「需要不足が続く現状」×「貯蓄の構造的減少」

という組み合わせは、積極財政の持続可能性を「時間制約付き」にしている、

というのが本質です。

「需要不足」は“現状の姿”、しかし「貯蓄減少」は“将来の制約”

財政拡大派が拠って立つ「需要不足」論は、

確かに現在(2020年代半ば)までの日本経済をよく表しています。

民間投資・消費の停滞

生産能力に対して需要が弱い

物価上昇が抑制される構造

したがって、短期的には財政支出で有効需要を刺激することは正しいと考えられます。

しかし、それが機能するのは「国民が国債を買う(=政府支出をファイナンスできる)」

構造が維持されている間だけです。

そこに高齢化が深く関係します。

 日銀が債務を「持っている」ことの意味(貨幣化=必ずしもインフレ化ではない)

日銀が国債を大量に保有することは「中央銀行による事実上の国債買入れ

(債務の一部の内在化)」ですが、重要なのは中央銀行がどのようにそのバランスシート

を管理し、インフレ期待をコントロールするかです。日銀がただ単に恒常的・無制限に

国債を買い入れて財政赤字を直接的・無制限にファイナンスする

(=財政ファイナンス、fiscal dominance)が起きればインフレ圧力は

強まります。一方で、日銀が市中金利の低位維持や「量的緩和」を進めても、

中央銀行に「引き締めの意思と手段(信用)」が残っていれば、

インフレ期待を抑えられます。最近の日銀は保有を段階的に縮小(QT)

する動きもあり、市場との関係を意識しています。

マクロ環境(低成長・低インフレ・高貯蓄)と通貨の需要

長期にわたるデフレ・低成長、人口高齢化に伴う高い貯蓄率(あるいは金融資産の蓄積)

があると、マネーの需要(貨幣保持)が強く、急激な物価上昇が起きにくい。実際、

日本は長年デフレや低インフレの歴史があり、物価・賃金の上昇ダイナミクスが

弱い構造にあります(これが「ハイパーインフレが起きにくい」要因の一つ)。

 財政慎重派の論点

経済理論・歴史が示すのは、ハイパーインフレは主に「通貨に対する信認の喪失」

から始まるという点です。政府・中央銀行への信頼が崩れ、家計や企業が

自国通貨を保有したくなくなり、急速に貨幣の流通速度(Velocity)が上がるとハ

イパーインフレとなります。単純に債務残高が大きいだけでは信認は即破綻しません。

むしろ、政策の透明性、財政・金融の調整能力、為替・外貨準備、及び政治の

安定性が鍵になります。IMF レポート等でも、日本の高債務はリスクであるが構造的に

即時の極端なインフレに直結しないと評価されています。

どんな場合に「ハイパーインフレ」のリスクが高まるか(日本で想定され得るシナリオ)

中央銀行の独立性が実質的に失われ、日銀が恒常的に国債を無制限に引き受けて

財政赤字をファイナンスする(財政ファイナンス)。

外的ショックで為替が急落→輸入物価上昇+期待の崩壊

(ただし日本は外貨建て債務比率が低い点は緩和要因)。

国内保有者の「保有能力(資金需要)」が急速に低下(例えば金融機関の損失拡大

などで国内の買い手が消える)。

政治的に大規模で持続的な財政赤字拡大が行われ、かつそれが信認喪失につながる

(例えば補助金の無秩序な恒常化や歳入対策の欠如)。

これらが同時に重なると、ハイパーインフレのリスクは実際に高まります。

逆に、日銀の説明責任、金融政策の出口戦略、国内投資家の需要維持、

為替安定策が機能している限り、単に「債務対GDPが高い」だけでは

ハイパーインフレには直結しません。

政策的に注視すべき指標(チェックリスト)

日銀のバランスシート拡大ペース(マネタリーベースの増加率)。

コアインフレ率(継続的に高まっているか)。

JGBイールド(長短金利の急上昇は信認悪化のシグナル)。

外国人保有比率と為替(急激な外国人売りと為替急落)。

政府の中期財政見通し(プライマリーバランス見通し・歳出構造改革の有無)。

ハイパーインフレリスクの要因

インフレリスクは存在します。特に「中央銀行の無制限な財政ファイナンス」

「信認の急速な喪失」「為替の急激な変動」が同時に起きればハイパーインフレ化の

可能性は高まります。政策運営(財政の中期計画、日銀のコミットメントと

手段、金融機関の健全性)が重要です。

1. 日銀が国債をコントロールできなくなるとはどういうことか

現在、日本の金利は「日銀が大量に国債を買って金利を抑えている」状態です。

これが機能しているのは、

国債市場の信認(=投資家が「国債は安全」と思っている)

日銀が「出口(利上げ・保有縮小)を理論的に説明できる」

からです。

しかし、もし次のようなことが起こると危険です:

インフレ率が上がっても、財政赤字が大きくて利上げできない(日銀の独立性が失われる)

投資家が「日銀は実質的に財政ファイナンスしている」と見なし、

国債価格が下落(金利上昇)

このとき、金利が上がる=国の利払い費が膨らむ=さらに赤字が増える、

という**悪循環(fiscal dominance)**に入る可能性があります。

これが「日銀がコントロールを失う」状態です。

 高齢化と国内貯蓄取り崩しの関係

これも非常に本質的な要因です。

経済学では、家計の貯蓄が国債の需要源になります。

ところが、

高齢化によって、働く人(=貯蓄を増やす層)が減少

高齢者は預金や国債を取り崩して消費に回す

金融機関(銀行・保険・年金基金)が国債を安定的に買う余力が減少

こうなると、日本国債の国内での安定的な買い手が減ることになります。

国内で吸収できなくなると、政府は:

日銀にさらに買わせる(=マネタイズ、通貨供給増大)

または海外投資家に頼る(=円安・金利上昇圧力)

どちらにしてもインフレ圧力・通貨価値下落圧力が強まります。

日銀が利上げや資金供給の制御を失う(財政ファイナンス化)

国内貯蓄が減り、マネーが取り崩されて国債需要が減る

政府が新発債を日銀や海外投資家に依存する

→ 「通貨の信認」が弱まり、インフレ期待が一気に上昇する可能性があります。

このシナリオは、すぐにハイパーインフレになるわけではありませんが、

「緩やかな構造的インフレ → 長期金利上昇 → 財政赤字悪化 → 金融抑圧

→ 信認低下 → 急インフレ」

という段階的な形を取りやすいです。

まとめ(経済学的に正しい理解)

要因 短期的影響 中長期的影響

日銀の国債コントロール喪失 金利上昇・円安 財政赤字拡大→信認低下

高齢化による貯蓄取り崩し 預金減少・国債需要減 資金供給構造が脆弱化

日銀の追加国債買入(財政ファイナンス) 一時的に金利抑制 通貨供給増→インフレ圧力

信認低下(通貨離れ) 円安・物価上昇 インフレ加速・国債暴落のリスク

政府赤字=民間貯蓄−民間投資+経常収支

日本では長年、民間貯蓄が多く(家計+企業ともに黒字)、

政府の赤字をファイナンスできました。

ところが高齢化が進むと:

高齢者が貯蓄を取り崩し始める

働く世代(貯蓄を増やす層)が減少

金融機関の預金残高が縮小

銀行・保険会社・年金基金などが国債を買う余力が減る

→ 結果的に、「国内で国債を消化する構造」が徐々に弱まります。

つまり、政府の積極財政を支える“資金の供給源”が時間とともに細っていくわけです。

この構造的変化は、日銀や財務省も近年は強く意識し始めています。

したがって、積極財政には「時間的リミット」がある

これは、まさにご指摘のとおりです。

短期的には:

需要不足を埋めるための財政拡大は正当化される。

(金利は低く、インフレもまだ穏やか)

中期的には:

高齢化により民間貯蓄が減り、国債の国内需要が弱まる。

日銀が買い支え続ければ、通貨供給増=インフレ圧力上昇。

外資依存に転じれば、金利上昇・円安リスク。

長期的には:

「日銀のバランスシート拡大」か「外資の高利回り要求」に頼る

構造になり、信認リスクが急速に高まる。

つまり、「積極財政は続けられない」。

このため、経済学的には——

積極財政は一時的に需要不足を埋める「ブリッジ政策」にはなり得るが、

人口動態による貯蓄減少が進む前に生産性と潜在成長率を高めなければ、

時間切れになる。という認識が主流です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

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